日本ではおとぎ話の浦島太郎に登場するエピソードになぞらえて『ウラシマ効果』とも呼ばれる、時間の遅れ現象。
浦島太郎が助けた亀に連れられて行った竜宮城で楽しいひと時を過ごし、帰ってきたら世界は何十年も経過しており、玉手箱を開けると自分もその分年老いてしまったというお話。
玉手箱は別として、果たして現実の世界で一人だけ時間の流れが変わってしまうようなことは起きるでしょうか?
結論として、現在の地球文明のレベルでは体感出来るほどの時間差が生じる経験は出来ませんが、『場所によって時間の進み方が違う』という物理現象は確実に起きています。
それは速度や重力によって時間の流れが影響を受けるからです。
事実、地上とスカイツリーの上とでは時間の進み方が異なっています。
この記事では、速度と重力と時間の関係を、実際の例を取り上げながら分かりやすく解説します。
相対性理論などの難しい話も説明の都合上登場することになりますが、それよりも実社会での影響などを中心に『へぇ』と思って頂ければと思います。
- ブロガー・投資家・医学博士・個人事業主
- 宇宙好き
- 高校では生物・物理
- 21世紀は物理で稼げないから医学へ(邪)
- FIRE可能な資産あり、好きで働いてます
ウラシマ効果とは
この呼び名は日本固有のものです。
浦島太郎は日本のおとぎ話なので当然ですね。
正しくは、単に『時間の遅れ』と表現され、海外では『Rip Van Winkle Effect』(リップ・ヴァン・ウィンクル効果)と呼ばれることもあります。
時間の遅れとは、相対性理論で予言された物理現象の一つです。
何となくのイメージは見聞きしたことがあるかもしれません。
難しく言うと以下の通りです。
2人の観察者がいるとき、互いの相対的な速度差により、または重力場に対して異なる状態にあることによって、2人が測定した経過時間に差が出る(時間の進み方が異なる)。時空の性質の結果として、観測者に対して相対的に動いている時計は、観測者自身の基準系内で静止している時計よりも進み方が遅く観測される。また、観察者よりも強い重力場の影響を受けている時計も、観察者自身の時計より遅く観測される。いずれも静止している観測者や重力源から無限遠方の観測者を基準とするので、時計の進み方が「遅い」と表現される。
Wikipedia『時間の遅れ』より
これでも一般人向けに分かり易い表現が心掛けられているものの、ちょっと難しいですよね。
もっと簡単に表現すると、以下の通りです。
自分から見て、相手の速度が速いほど・相手の重力が強いほど、相手の時間の進みが遅くなる=自分ばかり歳を取る。
例えば、地上のある地点に留まっている人から見ると、新幹線で移動している人の方が時間の進みが遅くなります。
その差は、東京-博多間の移動でおよそ10億分の1秒程度ですが、しかし確実に時間の遅れが発生します。
新幹線で移動している人から見れば、地上の世界は時間が早く経過していることになります。
つまり、高速で移動すれば未来に行けることになります。
また例えば、スカイツリーの展望台にいる人から見ると、スカイツリーの足元にいる人の方が時間の進みが遅くなります。
その差は1日あたり10億分の4秒程度ですが、これも確実に時間の遅れが発生しています。
つまり、重力が強いほど未来に行けることになります。
これほど高速や低い位置(=重力が強い)などでなくても、極端な話、座っている人と歩いている人、1階の部屋と2階の部屋との間でも厳密には時間の流れが異なっているのです。
実社会での影響
流石に1階の住人より2階の住人の方が目に見えて先に歳を取るほどの時間の遅れは生じませんが、私達の生活や身近な所で無視できない程度の差が生じる場合があります。
全地球測位システム(GPS)
GPS衛星を使って地上で正確な位置情報を知ることが出来る便利なシステムで、スマホでもカーナビでも大変重宝するシステムです。
使ったことがない人はいないと言っても過言ではないかもしれません。
ただこのGPS衛星、存在している場所は高度2万kmにも及び、その高度でおよそ半日に1周するという時速1万4,000kmでの移動を続けています。
その影響を考慮して、GPS衛星内の時計は毎秒100億分の4.45秒だけ遅く進むように設定されており、衛星から地上へ送信される電波も時間の遅れを考慮して調整されています。
そうしないと、私たちは正確な位置情報をリアルタイムで知ることが出来ないのです。
カーナビが微妙にずれて、一本隣の道を指し示されたら困りますよね。
そうならないように、時間の遅れがしっかり考慮され、対策されていると言うことです。
EU開発の測位システム『ガリレオ』
高度2万4,000kmに30機を配する、GPS様の全地球航法衛星システムです。
測位に要する時間が短縮され、また測位精度がGPSでは数メートルであったのに対して1メートル程度にまで精度を向上させることが出来るとされています。
GPS衛星と同様に時間の進みが地上と異なるための調整がなされています。
地上での生活を便利にするために衛星を使った事業が拡大していきますが、そこには相対性理論が応用され、時空の歪みと時間の進み方のズレを補正すると言うことが行われています。
ほんの僅かな誤差ではありますが、日常にも深く関わっていると言うことを実感出来る部分でもありますね。
SFや架空の世界での描かれ方
時間旅行、タイムマシンなどの描かれ方は様々なところで見掛けます。
一方、明らかにウラシマ効果の描写と思われるようなシーンもあり、これらを見たら『あぁ、時間の遅れ現象ね』と思いましょう。
精神と時の部屋(ドラゴンボールより)
主人公達が主に修行の時間を確保するために使用した架空の部屋で、重力が地上の10倍あります。
この空間では1日が外の世界の1年に相当します。
重力だけでは説明が付きませんので、きっと物凄い速度で移動している異次元空間なのでしょう。
ミラーの星(インターステラーより)
人類が移住出来る可能性のある惑星を探索する過程で登場する、ブラックホール近傍に存在する強重力の星。
周回軌道上で待機する仲間を置いて探索に向かい、ほんの数時間滞在しただけで、帰還した時にはその仲間は年老いていました。
たった数時間の活動も、周回軌道上では23年間もの月日が流れてしまっていたのです。
長大なストーリーのワンシーンですが、この映画は時空に関する物理的な描写がとても面白い(それだけでは無い魅力があります)のでオススメです。
その他にも、ドラえもんやナルニア国物語、ウルトラマンメビウスなど至る所に同様の現象が描かれています。
いつかそんな時間制御が可能になる時代が来るのかもしれません。
未来の技術:タイムマシンへの応用
応用例は何と言ってもタイムマシンでは無いでしょうか。
と言っても、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場するタイムマシンに改造された『デロリアン』や、ドラえもんに登場するようなタイムマシンのような存在は、現在は実現不可能とされています。
その理由は、『過去への移動は不可能』とされているからです。
現実的にあり得るのは未来への移動です、ブラックホールの内部であれば話は別かもしれませんが。。。
未来への移動はウラシマ効果を使うことで可能になります。
例えば光速の90%の速度で航行可能な宇宙船が出来たと仮定し、これが一定の速度で直線的に進んでいる場合を考えます。
この場合、宇宙船内の時間の進み方は静止している船外の世界のおよそ0.44倍程度になるため、外の世界の10年は宇宙船内での4.4年(4年と5ヶ月弱)に相当します。
つまり、極めて高速で移動することで、外の世界を早回しすることが出来るのです。
もし光速で航行可能な宇宙船が完成すれば、一瞬で10年先、20年先の世界へ行くことが出来るようになるでしょう。
終わりに
移動速度を上げれば上げるほど、未来へのタイムマシンとしての完成度は上がっていきます。
相当な技術力が無ければなりませんので、まだまだ時間が掛かるでしょう。
時間ほど貴重なものはありませんし、少なくとも現時点では人類が操ることの出来ない因子です。
過去はあくまで記録・記憶の中にしかありません。
本サイトにおける気分転換枠であるサイエンス記事の一つでしたが、書いていて改めて今を大事にしようと思いました。
時間を最大の武器にして。
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