一昔前まではそんな文字通りの都市伝説がまことしやかに唱えられていました。
地上からは決して見ることの出来ない月の裏側に想いを馳せ、本当にそんな可能性があるのではないかと考えられてもいたようです。
絶対に誰にも見えなかったのですから、そんなことは無いと主張しても、無いことを証明することは出来なかったのです。
しかし1959年に初めて月の裏側が観測され、実際に都市など無かったことが確認されました。
ただ、地球に向いている側とは異なる特徴、様相であることも同時に分かってきました。
そこでこの記事では、月の裏側にまつわる数々のエピソードと実際の観測結果を紹介します。
2022年3月には月の裏側に使用済みロケットが意図せず落下したとの情報もあり、観測できないが故にその影響に関する議論を巻き起こしました。
いつでも好きな時に見る事が出来ない月の裏側は、好奇心を掻き立てられます。
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月の裏側は何故見えないのか
正確には、裏側の18%の部分は地上から観測する事が出来ます。
月は重心に偏りがあり、形状も真球ではありません。
そのため、秤動という“揺らぎ”が発生し、僅かに裏側の一部を見る事が出来ます。
とは言え、裏側の82%もの領域は地上から観測する事は出来ません。
夜空を見上げれば月は見えるのに、その背後に広がる裏側の世界は決して見えないのです。
何故なら、月の自転と公転の周期が完全に一致しているからです。
ハンマー投げの鉄球を思い出してください。
回転する選手の握るワイヤーの先にある鉄球は、常にワイヤー結合部分を選手側に向けています。
それと同じ状態が起きています。
しかし月と地球の間にはハンマーのようなワイヤーがあるわけでも無いのに、何故でしょう。
その理由は潮汐固定にあります。
潮汐固定とは、
コトバンク『潮汐固定』より
天体の自転と公転の周期が等しくなること。 相手の天体に及ぼす重力が大きい場合、自転に対し潮汐力のトルクが生じることによって、公転する天体のある一方向が主天体に向いたまま力学的に安定した状態になる。 地球と月のほか、火星や木星の衛星などに見られる。 潮汐ロック。
なんだか難しそうですが、要するに重力が強いのでハンマー投げのハンマー状態になっているという事です。
月の裏側はどうなっているのか
地表から観測出来ないのであれば、もう月の裏側に回り込んで見るしかありません。
それを始めて行ったのが1959年の『ルナ3号』(ソ連製)です。
当時は画像の解像度も低く、不鮮明な写真だったそうです。
それから幾度と無くソ連と米国を中心に月の裏側の撮影にチャレンジし、日本も2008年には『かぐや』による観測に成功。
低高度観測も行い、さらには重力分布まで知る事が出来ました。
2015年には、地球からおよそ160万km(地球と月の距離はおよそ38.4万km)離れた軌道を周回するアメリカ海洋大気庁(NOAA)の人工衛星「DSCOVR」(ディスカバー:深淵宇宙気候観測衛星)が、月の背後からの撮影に成功します。
NASAから公開された動画は大変綺麗なものです。
月が地球を横切る様子を月の背後から撮影したもの
2015年7月16日の15時50分から20時45分にかけて、月が北米大陸近くの太平洋上を通過する様子が映っています。
地球を横切る天体の撮影というのは、なかなか見る事がないので新鮮であると同時に、普段見ることの出来ない月の裏側に視線が行きます。
この撮影は赤・青・緑の単色での撮影をそれぞれ30秒ごとに行ったものを重ね合わせているため、若干ボヤけたように見えるのが少し残念ではありますが、とても印象深い動画です。
因みに、DSCOVRに搭載されている地球多色撮像カメラ(EPIC:望遠鏡と400万画素のCCDカメラ)で撮影された画像は、NASAのEPIC画像サイトで毎日公開されています。
月の裏側は高低差が激しい
上の動画からも分かりますが、月の裏側はなんだかのっぺりしていますね。
何故これほどの違いが生まれたのかについてはまだ分かっていません(2022年4月現在)。
のっぺり見えるのはこの海の少なさが原因のようで、実は表面の起伏は裏側の方が大きくなっています。
地球で最も標高が高いのはエベレスト山頂(8,849m)、最も低いのはマリアナ海溝(10,983m)ですから、高低差は月も地球もほぼ一緒ということになります。
しかし地球の直径が12,742kmであるのに対して月の直径は3,474kmですから、月の裏側では凹凸が大きい事が分かります。
また、表側の地殻は60kmであるのに対し、裏側の地殻は68kmと分厚くなっていることも特徴的な違いです。
月の裏側はクレーターが多い
クレーターは隕石の衝突によって出来ますので、裏側にはそれだけ多くの隕石の衝突があったことを意味します。
月がこれだけの隕石を受け止めてくれてきたおかげで、地球へのダメージが最小限に抑えられてきたということでもあります。
月の裏側には謎が多い
謎のガラス球
普段見えないからなのか、不思議なものの発見がしばしば取り沙汰されます。
例えば2022年現在、解明されていないガラス球の存在があります。
無人探査機が撮影した写真に映っているだけで、解析が出来ないため謎に包まれています。
隕石の衝突や火山活動などで生じたものと思われているようですが、いつか検証される日を待ちましょう。
謎のゲル
史上初めて月の裏側に軟着陸を果たした中国の探査機『玉兎2号』は、月の裏側に謎のゲル状の物体を発見しました。
これも結局はガラスではないのかと指摘されてはいますが、正体ははっきりしません。
謎のクレーター
ライダー・クレーターと呼ばれる不思議な形をしたクレーターも見つかっています。
クレーターの上にさらにクレーターが出来たようで、なんと縁の部分と最も深い部分との高低差が3,000m以上もある巨大なものです。
その歪な形状はなんとも不思議で、地球上では出会えない光景です。
謎の小屋
ここまで来ると何でもアリですが、それだけ月の裏が神秘的ということの裏返しでしょうか。
2021年末、月の裏側に小さな小屋のようなものが見つかりました。
遠景では確かに建物のようにも見えます。
話題になりましたが、実際に近づいて見てみると岩石だった事が判明するのですが、それでも月の裏側の探索には夢が尽きません。
終わりに
人類が初の月面着陸を行った1969年から50年以上が経過した今でもなお、地球から最も近い天体で肉眼で表面の模様まで見える月については未知のことが沢山残されています。
地球のことすら理解出来ていないのですから当然といえば当然ですが、覗きたくても覗けない裏側というところに好奇心を惹かれる部分もあります。
そんな魅惑の天体を、人類は勝手に切り売りしています。
逆を言えば、それだけ整備するにはまだまだハードルが高いということなのでしょう。
月面基地や月面都市は、計画はあったとしてもまだまだSFの世界ということです。
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