子供のスポーツ適正を知る方法があれば是非活かしたいですよね。
先に結論を言っておきますが、現在の遺伝子検査の水準ではそこまで詳しく判定できるものではありません。
ただ、持久力や筋力などの身体的能力に影響を与えることが分かっている遺伝子があることも事実で、多少なりとも参考にすることは可能です。
しかしその結果に縛られて特定の運動を強制させることは良くありませんから、先ずはその適正がどれほどのものか、得意と思われる運動を試してみるきっかけ程度に捉えておくのが良いでしょう。
検査自体は手軽に実施出来るものが用意されていますので、本項ではどのように参考にすれば良いのかを子育て中の医学博士の視点で説明します。
- ブロガー・投資家・医学博士・個人事業主
- 1歳児(心室中隔欠損症)の父親
- 既に診察券は5枚 (産科、小児科、皮膚科)
- 親子ともコロナ、ノロ経験済
- FIRE可能な資産あり、好きで働いてます
遺伝子と運動能力
エクササイズジュニア遺伝子検査キットで調べられる遺伝子は次の3種類です。
いずれも運動能力との関連性を図る上ではテッパンの遺伝子です。
・ACE
・ACTN3
・PPARGC1A
ここでは小難しい話は抜きにして、どの程度参考になるものなのか、現在知られている情報を簡潔にまとめて説明します。
持久力との関係性:ACE
アンギオテンシンI転換酵素(ACE)とは、肺の血管内皮細胞と呼ばれる『血管の最も内側にある細胞』から放出されて血圧を調節していることが知られています。
一見すると直接的に運動能力を左右するような働きには見えませんが、以下のように運動能力と関連があるとする報告が一部に存在するのは確かです。
これまで持久的能力との関連において最も多く研究されている遺伝子に、アンギオテンシン変換酵素(ACE)遺伝子があります。この遺伝子には遺伝子の一部にある配列が挿入されている挿入型(I型)とその配列がない欠損型(D型)が存在しています。無酸素登山により8000mの山を制覇し得た登山家15名において、D型をホモで保有するヒトはおらず、全員がI型を保有していたことが報告され、持久的能力にはI型を保有していることが有利である可能性が示されました。その後もこのI型が持久的能力と関連していることが多く報告されています(しかしながら関連がないとする報告もあります)。
厚労省 e-ヘルスネットより
スプリント能力との関係性:ACTN3
Alpha-actinin skeletal muscle isoform 3(ACTN3)は筋肉を構成するタンパク質の一つで、いかにも運動能力に関係していそうですが、実際にその関係性が報告されています。
スプリント能力などとの関連が報告されているものとして、α-アクチニン3(ACTN3)遺伝子があります。この遺伝子にはR型とX型が存在し、持久性のオリンピック選手だとXX型が多くなり、パワー系・スプリント系のオリンピック選手だとXX型がいなかったという報告がされています。つまりXX型はパワー系・スプリント系には不利に働く可能性があります。
厚労省 e-ヘルスネットより
エネルギー調節との関係性:PPARGC1A
PGC-1αという、ミトコンドリアで働くタンパク質の遺伝子です。
少しだけ補足すると、PGC-1αはPPARγという転写因子に結合することで、エネルギー産生や熱の消費に関わる多くの遺伝子の調節に関与しています。
ミトコンドリアは私たち人間が運動する時のエネルギーの大半を作り出す細胞内の小器官で、その機能にこの遺伝子は関わっています。
この遺伝子の型(遺伝子多型と言います)によって、有酸素運動に関わる能力に差があることが示唆されています。
科学研究費補助金 成果報告より
ただし一般的には、運動能力を上げる遺伝子という解釈ではなく『運動によって働きが向上する(発現上昇する)』という報告が多いようです。
痛くない検査方法でスポーツ適正を見る
検査方法は血液検査ではなく口腔粘膜採取によって行われます。
遺伝子検査とは、DNAが採取出来れば実施が可能です。
ちなみにDNAと遺伝子は同義語ではありません。
イメージとしては線路がDNA、駅が遺伝子です。
DNAの構造が紐解かれてきた現在では、駅の無い領域にも重要なポイント切替や踏切などに相当する重要なものがたくさんあることが分かっています。
結果は以下の3タイプ分類として報告されます。
- 速筋タイプ:
瞬発力に優れ、スプリント系に向いた白筋の多いタイプ(速筋は解剖学的に白っぽく見えることから)。
- 遅筋タイプ:
持久力に優れ、長距離種目に向いた赤筋の多いタイプ(遅筋は解剖学的に赤っぽく見えることから)。
- 中間タイプ:
上記2タイプの中間の性質を持つタイプ。
結果レポートやアドバイスはPCやスマホでいつでも見ることが出来ます。
得意な運動タイプを知る意味
遺伝子検査はあくまでもたった3種類の遺伝子の多型で判定する、傾向を知るためだけのものです。
人の遺伝子は20,000以上もあり、どんなに詳細に解析したところで個人の能力を判定することは現代医学では不可能です。
何故なら、多種多様な遺伝子が互いに連関して働いていることと、遺伝子では決まらない後天的な影響が極めて大きいからです。
ただ、運動能力適正については上記3タイプに大まかに分類出来ること自体は正しい、と考えられています。
その傾向を予め知っておくことは、お子さんが小さなうちに『より得意である可能性の高い種目』を狙って試すチャンスにつながる可能性があります。
しかし冒頭でも書いたように、遺伝子検査に縛られすぎてはいけません。
どのタイプに当てはまるのかは運動をしていれば自ずと自分で分かってくるものです。
50m走より800m走が得意とか、高く飛べるけど2時間の練習はキツいとか、実感として感じるものです。
私は長距離はめっきり苦手で、完全な白筋タイプと悟りました。
その上で、弱点を克服したり得意な分野を伸ばしたりする中で個性が発揮されますので、運動能力を遺伝子多型だけで決めつけるのは良くありません。
あくまでアドバイスとして受け止めるようにしておきましょう。
持久力で勝負が出来ない種目でもテクニックがそれをカバーすることは出来ますし、そのおかげで上達が早くなることだってあるからです。
高く飛んだり強いスパイクが打てなくても、正確なトスが上げられたりレシーブが上手ければ、アタッカーと同等にチームに大きく貢献出来る素晴らしい選手になれるのです。
終わりに:遺伝子検査の意義
遺伝子検査というハイテクじみたものがこうして一般に手軽に行われるようになったのは、ウイルス検査でもお馴染みのPCR法に代表されるDNAの取り扱い技術の発展の賜物です。
知らない人が聞くと、あたかも何でも分かる万能の未来の技術のように聞こえてしまうかもしれませんが、人体の設計図としてのDNAは未だに未知の領域で溢れています。
分かったようで分かっていないのが遺伝子で、DNA上の配列は正しく分析出来ても無数にあるそれらの入り乱れた働きはほとんど分かっていないと言っても過言ではありません。
今後それらの分析・解析技術が大きく発展すれば、その検査制度や意義も変わってくるかもしれません。
しかし遺伝子は使ってなんぼ、配列だけでは決まらない部分が大きいことには変わりありませんので、あくまで参考にしながらスポーツに対する関心を高めるツールの一つとして活用していきましょう。
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